野田 尚史(のだ ひさし)
社会言語科学会は,25年前に設立された比較的新しい学会です.言語やコミュニケーションについての課題を人間・文化・社会との関わりにおいて解明することを目指しています.
言語の研究は,伝統的には音声・語彙・文法など,言語の構造についての研究を中心に進められてきました.人間が実際に言語をどのように使っているかという言語の運用を考慮しないで言語の構造を静的に分析した方が,定式化がしやすかったからでしょう.しかし,そうした研究によって言語の構造が明らかになってくると,人間の言語の運用にも関心を持つ人が増え,研究も盛んになってきました.本学会はそのような研究の広がりを背景に設立されたと言えます.
言語の運用は社会の中で人間が行う動的なものであるため,さまざまな要因が関わっています.そうした要因の中にはまだほとんど解明されていないものもたくさん残っています.研究を進めていくためには,伝統的な研究方法だけではなく,新しい研究方法を試していく必要があります.また,言語学の研究者だけではなく,心理学や教育学,工学をはじめ,広い分野の研究者が協力していく必要があります.
言語やコミュニケーションに関心がある方は,ぜひこの学会に入会していただきたいと思います.どんな方でも,温かく迎えられるでしょう.会員の方は,研究大会・シンポジウム・講習会へのご参加や,研究発表へのご応募,学会誌へのご投稿などを積極的に行ってくださるようにお願いいたします.また,学会事務局の運営や,各種イベントの企画・運営,学会誌の編集をはじめ,さまざまな学会の業務にも積極的に関わっていただければと思っています.
社会言語科学会は設立当初は会員数が300あまりでしたが,たくさんの方々の献身的な活動によって,この25年間で4倍以上,1300を超えるまでに成長してきました.これからも,この学会を舞台に,お互いの多様性を尊重しながら力を合わせて,社会の中で人間が行う活動としての言語やコミュニケーションの研究を進めていきましょう.
2023年4月